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第五話 二人の出会い

last update publish date: 2026-03-19 06:00:00

──天埜修 視点──

「あっ! 危な────い!」

運転手の倉田が大声を上げる車内。

キキ────ッ

急ブレーキをかけた車は、急停車した。

「どうした?」

慌てながら心配そうに、倉田に声を掛ける天埜。

綺麗に着飾ったドレス姿の女性が突然、道路に飛び出して来て事故が起きた。

その場に倒れ込んだ女性に運転手が駆け寄り、謝罪しようとしたが、 突然意識を失ってしまった。

その後救急車が来て、その女性は病院へと運ばれて行った。

周りに居た人に、被害者の詳細を聴き調査する秘書の倉田。

彼女が平井綾だと分かった。

平井家と天埜グループは、直接の競合関係にはない。

しかし、平井綾は、徳野昌浩と婚約している。

「徳野?」

徳野昌浩と天埜グループは、長年にわたり競争関係にあり、徳野グループは天埜の核心事業に進出しようとしている。

天埜にとっては、邪魔な存在に違いない。

しかし、天埜の目には、徳野昌浩は父の権力に頼るだけの名ばかりの後継者として映っている。

徳野家と天埜家は代々明確な争いをしてきたが、実力は天埜修には及ばない。

丁度、平井綾の検索をしていると、ニュースの見出しが天埜の目にも飛び込んできた。

〈豪門ドラマ! 平井綾の婚約、破談に。実の妹・美奈が逆襲? 関係者曰く「彼女が妊娠している子が本当の後継者」〉

〈婚約パーティー惨劇の反転? 昌浩が直筆で説明「綾とは愛し合っていません。美奈への攻撃はやめてください」〉

「徳野、仕事も··に出来ないのに、彼女を裏切り続けていたのか? 最低な男だな!」

──平井綾は、こんな男を信じ続け、今までずっと尽くしていたのか。そして、裏切られた……

天埜は、秘書の倉田と共に、綾が運ばれた病院を訪れた。

ゆっくりベッドの方に目を向けると、横たわる少女...…その美しさは華やかさではなく、脆く、砕けそうな透明感を放っている。

──ん? どこかであった事があるのか?

ふと、天埜の胸の奥がざわついた。

初めて会ったはずなのにどこか懐かしく、かつて幼い頃憧れていた初恋の香りが微かにした。

秘書の倉田が謝罪し、天埜修が賠償を提示した。

しかし、平井綾の反応は、天埜修が想像していたものとは全く違った。

賠償は要らない! 謝るべきは自分だと言っている。

──どうしてだ?

天埜は、驚いた顔で綾を見ている。

一般的には、特に彼女の家柄を考えれば弁護士を呼ぶのが常識だが、彼女は冷静で礼儀正しく、抑制の効いた態度を貫いている。

しかし、その時、綾のスマホに通知が届き、表情が空白から死寂へと変わった。

すると、彼女は突然笑い出した。

いや涙を溢しながらも笑い続けている。

思わず唾を飲み、ただ呆然と見つめてしまう。

綾は、決然とした目で天埜修を見つめ、

「明日の結婚式は、このまま行うわ。あなたが私の花婿になって! それが私からの条件よ!」

と告げた!

──本当は繊細で可憐なはずなのに、一生懸命に前を向こうとしている健気な女。

天埜の瞳に、一瞬の驚きがよぎった。

目の前の女は、つい先ほどまで病床で息も絶え絶えだった。まるで雨に打たれた野良猫のように、全身ずぶ濡れで、見るも無惨な姿だった。

彼は当然、泣き崩れると思っていた。裏切られた女たちが皆そうするように、取り乱し、感情をぶつけてくるのだと。

だが──彼女は違った。

顔を上げて彼を見る。

その瞳はまだ赤く腫れているのに、まるで火をくべられたかのように強く、驚くほどに輝いていた。

──面白い。

天埜は無意識に口元を吊り上げる。

あれほど脆く、触れれば壊れてしまいそうだったくせに。

次の瞬間には涙を拭い、自分の持てるすべてを武器に、彼と条件交渉を始めるとは。

この子猫、なかなか爪が鋭い。

ふと、妙な考えが胸をよぎる。

こんなにも意地の強い小さな存在を、もし傍に置いて大切に守ったなら──どんな顔を見せるのだろうか。

「……ふ」

低く笑い、彼は彼女の手を取った。

「ちょうどいい。お望みどおりだよ、お嬢様」

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